同じ生成AIを、同じ業務で使っている。それなのに、人によって出てくる成果物の質がまったく違う。AIが職場に浸透するにつれて、多くの方がこの差に気づき始めています。プロンプトの型を覚えても、この差はなかなか埋まりません。その差は、依頼文そのものよりも、依頼の前後にあります。本稿では、その見方を整理します。

同じ依頼でも、結果はここまで変わる

たとえば、企画部でこんな場面があったとします。

企画部の二人が、同じ生成AIに「新サービスの案内文を作る」という仕事を依頼しました。

Aさんの依頼はこうです。

新サービスの案内文を書いてください。

Bさんの依頼はこうです。

新サービスの案内文を書いてください。読み手は既存顧客の総務担当者で、決裁者ではありません。この案内文のゴールは「上司に転送したくなること」です。そのため、機能の羅列ではなく、上司への説明のしやすさを優先してください。文字数は300字以内。専門用語は使わないでください。

ここまでは、Bさんの依頼が丁寧だから差が出た、と思うかもしれません。ただ、差が出るのは依頼文だけではありません。

Aさんは返ってきた文章を読んで「まあ、こんな感じだろう」と、ほぼそのまま使いました。Bさんは返ってきた文章を読んで「悪くないけれど、これでは転送された上司が読んだときに費用感が分からない」と気づき、修正を依頼しました。

違いは、依頼文が長いか短いかではありません。Bさんは「何を基準に回答を見るか」をあらかじめ持っていて、Aさんにはそれがなかった。そこが、依頼の仕方にも、回答の見方にも表れています。

プロンプトの型だけでは足りない理由

「依頼の書き方がうまいかどうかの差ではないか」と思われるかもしれません。実際、プロンプトの型を学べば、Aさんの依頼文も形式上はBさんの依頼文に近づきます。

ところが、型を埋めただけでは、回答をどう直すかまでは見えてきません。「読み手は誰か」「ゴールは何か」という項目を埋めることはできても、返ってきた回答のどこが足りないかを判断できないからです。回答を評価できなければ、適切な修正依頼も出せません。最後は「まあ、悪くないか」で使ってしまいます。

つまり、差が出る原因は、依頼文を書く技術だけではなく、依頼する前に「何を基準に回答を見るか」を自分の中に持っているかどうかです。そしてこれは、AIのスキルではなく、その仕事をどれだけ深く理解しているかの問題です。

生成AIを使っていると、ここで少し厳しい現実にぶつかります。AIは、使う人の仕事への理解の深さを、かなり素直に映し出します。理解が深い人は、より高い水準まで仕上げられるようになります。一方で、理解が浅いまま使う人は、浅い理解のまま、それらしい文章をたくさん作ってしまいます。

AIの回答を使える形に近づける三つの手順

それでは、「何を基準に回答を見るか」を持つには、どうすればよいのでしょうか。才能の話にしてしまうと、明日から変えられません。ここでは、すぐ試せる手順に分けて考えます。次の三つの手順で見ていきます。

手順1:依頼する前に、回答を見る基準を三つ書き出す

AIに依頼文を入力する前に、「返ってきた回答のどこを見るか」を三つ書き出してみてください。先ほどの例であれば「総務担当者が上司に転送したくなるか」「300字以内に収まっているか」「専門用語がないか」の三つです。

書き出せない場合は、まだ依頼する前に考えることが残っている、ということです。何を基準に見るかが曖昧なままでは、AIに依頼しても回答を評価できません。その場合は先に「この案内文では、どこを見て良し悪しを判断すればよいでしょうか」とAIに質問する形に切り替えると、何を頼めばよいかがはっきりします。

手順2:回答を、三つの視点で読み直す

AIの回答を読んで「良さそう」と思ったところで、一度止めたほうがいいです。自分で依頼して自分で評価している限り、自分で作った答案を自分で丸つけしているようなものです。欠点はなかなか見つかりません。

そこで、使う前に読み手を変えてもう一度見ます。

  1. 自分の視点:自分の意図どおりの内容になっているか
  2. 相手の視点:これを受け取るクライアントや上司の目には、どう映るか
  3. 最終的に影響を受ける人の視点:相手の先にいる顧客やユーザーにとって、意味のある内容か

相手の視点で読み直すと「これは自分の都合を並べただけではないか」という点が見つかります。さらに、最終的に影響を受ける人の視点まで進むと「そもそも誰が喜ぶのか」という、いちばん大事な前提の抜けが見つかります。

アイデアを思いついた瞬間や、良い回答が返ってきた瞬間の高揚感を、そのまま信用しないこと。良い回答に見えても、その場の勢いだけで採用しないことが大切です。これはセンスではなく、確認の順番の問題です。

手順3:「違う」と感じたら、どこが違うのかを言葉にする

回答を読んで、うまく言えないけれど何かが引っかかる。この感覚を、放置しないでください。その違和感は、自分の中にある基準が反応しているサインです。

引っかかりを覚えたら、「なぜ違うと感じたのか」を一度言葉にしてから、修正を依頼します。「もっと良くしてください」ではなく「費用感が分からないので、上司が予算を判断できる情報を一文足してください」とまで言えれば、次の回答はかなり直しやすくなります。

AIへの依頼がうまい人は、最初の一回で完璧な文章を引き出しているわけではありません。違和感を言葉にしながら、何度かやり取りしています。

差は、依頼文の前後にある

最後に、要点をまとめます。同じAIを使っていてもアウトプットに差が出るのは、依頼文の書き方だけでなく、依頼する前と、回答を受け取った後の行動に差があるからです。

  • 依頼の前に、回答を見る基準を自分で持つ
  • 回答の後に、視点を切り替えて検証する
  • 違和感を言葉にして、次の依頼につなげる

AIがどれほど優れた回答を出せるようになっても、「その回答で本当に良いのか」を決める仕事は、最終的には人間が判断するしかありません。プロンプトの型は、調べればすぐに見つかります。ただし、回答を見て、直して、また確かめる作業は自分でやる必要があります。

そしてそれは特別な才能ではなく、次にAIへ依頼するときから始められます。

Q&A

Q. プロンプトの型やテンプレートを学ぶのは無駄でしょうか?

もちろん役に立ちます。依頼に盛り込むべき要素(読み手・目的・条件)を、最初に押さえるには便利です。ただし、型を埋めるだけでは、返ってきた回答を評価する力は身につきません。

テンプレートを使うときも、先に「何を基準に回答を見るか」を決めておくことが大切です。

Q. 毎回、三つの視点で丁寧に見直す必要がありますか?

すべての依頼で、同じ時間をかける必要はありません。社内の下書きや自分用のメモであれば、軽く確認するだけで十分なこともあります。

ただし、相手に送る文章、判断材料になる資料、費用や契約に関わる内容では、確認を省かないほうが安全です。時間をかけるべきかどうかは、「間違っていたときに誰が困るか」で決めると分かりやすくなります。