この記事でわかること
  • AIで起こりやすい3つのリスク
  • 経営者として押さえておきたい5つの基本
  • 明日から動ける3つの具体的なアクション

なぜ今、AIセキュリティが話題になっているのか

「AIを使ってみたいけれど、情報が漏れたら困る」
「うちの会社で使って、本当に大丈夫なのだろうか」

AIの活用を考え始めた経営者から、こうした不安を聞くことが増えています。

不安に感じるのは、自然なことです。情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、AIの利用にまつわるリスクが組織向け脅威の3位に初めて選ばれました。専門家も注目している領域だからこそ、何から考えればよいのか迷いやすいテーマです。

特に、規模の小さな会社では、迷いを抱えたまま手が止まってしまうことがあります。情報システムの専任担当者がいない。社員がそれぞれの判断でAIを使い始めている。社内で相談できる相手がいない。こうした状況は、決して珍しくありません。

とはいえ、「使わない」と決めるだけでは、現実的な対策になりにくくなっています。メールの返信、議事録の整理、社内文書の下書きなど、AIで効率化できる作業はすでに身近なところに広がっています。AIを使わないことで、業務改善の機会を逃してしまう可能性もあります。

だからこそ、不安を抱えたまま放置するのではなく、「安全に使うための基本」を押さえる方向に切り替える価値があります。最低限の判断軸を持つだけでも、現場の迷いは減らせます。

この記事は、AIセキュリティの全体像をつかむための入口です。まずはここで基本を整理し、詳しい対策が必要な部分は関連記事で深掘りしてください。1記事ですべてを解決しようとするのではなく、必要なところから順番に確認できる構成にしています。

AIで起こりうるリスクは、大きく3つに整理できる

AIを使うときのリスクは、細かく見ればいくつもあります。ただ、大きく分けると、次の3つに整理できます。

1つ目は、情報漏洩のリスクです。

これが、AI利用で多くの会社が最初に不安を感じる点です。AIに入力した内容が、サービス側で保存されたり、設定によっては学習に使われたりする可能性があります。

お客様の名前、取引先との価格、社員の個人情報、未公表の売上情報などをそのまま入力すると、会社の外部サービスに重要な情報を渡すことになります。まずは「入力してよい情報」と「入力してはいけない情報」を分けて考える必要があります。

ただし、すべてのAIサービスが同じ仕組みではありません。個人向けのプランでは、入力した内容がAIの改善に使われる設定になっている場合があります。一方、企業向けのプランでは、初期設定で学習に使われない仕様になっているものもあります。使うサービスやプラン、設定によって、リスクの大きさは変わります。

2つ目は、著作権や法的なリスクです。

AIが作った文章や画像が、知らないうちに他者の著作物に似てしまう可能性があります。また、他人が書いた文章や有料資料をそのままAIに入力して要約させる場合も、扱い方によっては問題になることがあります。

「AIが作ったものだから自由に使える」と考えるのではなく、入力する情報と、出てきた成果物の両方に注意が必要です。

3つ目は、誤情報や誤動作のリスクです。

AIは、自然な文章で間違った内容を返すことがあります。実在しない制度を説明したり、誤った数字を出したり、事実ではない情報をもっともらしく書いたりすることがあります。

そのままお客様への返信や社外向け資料に使うと、会社の信頼を損なう原因になります。AIの回答は下書きや参考情報として扱い、最終確認は人が行う。この前提を社内で共有しておくと、AIとの距離感が定まります。

この3つを意識しておくと、AIに関するニュースや注意喚起を見たときにも、「これは情報漏洩の話だな」「これは著作権の話だな」と整理しやすくなります。

経営者が押さえる5つの基本

リスクの全体像をつかんだら、次は対策の基本です。ここでは、細かな技術の話ではなく、経営者として何を決めるべきかという観点で5つに整理します。

1つ目は、入力してよい情報と、入力してはいけない情報を決めることです。

「お客様の名前は入力しない」「取引先との金額は入力しない」「社員の個人情報は入力しない」といった具体的な禁止情報を決めるだけでも、現場の判断は大きくぶれにくくなります。

2つ目は、使ってよいツールやプランを決めることです。

会社として使うAIサービスが決まっていないと、社員はそれぞれ個人の判断で別々のサービスを使い始めます。そうなると、設定や利用状況を管理しにくくなります。まずは会社として使うツールを1〜2個に絞るだけでも、管理はしやすくなります。

3つ目は、入力内容が学習に使われない設定を確認することです。

多くのAIサービスには、入力内容をAIの学習や改善に使うかどうかを選べる設定があります。業務で使う場合は、会社で使うアカウントの設定を確認し、必要に応じて学習に使われない設定にしておくことが大切です。

4つ目は、社内ルールを作ることです。

最初から難しい規程を作る必要はありません。A4一枚に「使ってよいツール」「入力してはいけない情報」「困ったときの相談先」をまとめるだけでも、現場にとっては十分な判断材料になります。

5つ目は、シャドーAIを防ぐことです。

シャドーAIとは、社員が会社に報告せず、個人のアカウントでAIを業務で使うことです。本人に悪気がなくても、機密情報やお客様情報が個人アカウント経由で外部サービスに入力される可能性があります。

単に禁止するだけでは、かえって見えないところで使われることもあります。「会社で使えるアカウントを用意するので、業務では個人アカウントを使わないでほしい」と伝える方が、現実的な対策になります。

リスクごとの、具体的な対策の進め方

ここからは、3つのリスクごとに、具体的な対策の入口を見ていきます。

情報漏洩への対策は、「何を入力しないか」を決めるところから始まります。仕組みから理解したい方は、AIを使うと、情報が漏れるって本当ですか?が入口になります。具体的な禁止情報リストを作りたいときは、AIに入力してはいけない情報とは?を参考にしてください。

著作権や法的リスクについては、入力時と出力時の両方に気を配る必要があります。仕事で使う場面で最低限知っておきたい内容は、AIと著作権、仕事で知っておくべき最低限のことにまとめています。

ツールごとのセキュリティ設定は、サービスによって画面や項目が異なります。ChatGPTを使う方はChatGPTで最初にやっておくべきセキュリティ設定を、Claudeを使う方はClaudeで最初にやっておくべき設定と使い始め方をご覧ください。どちらも、設定画面を開けば数分で確認できる内容です。

社内ルール作りの実務

社内ルールというと、分厚い規程集のようなものを想像しがちです。しかし、最初からそこまで作り込む必要はありません。30〜50名程度の会社であれば、まずはA4一枚のルールでも十分に機能します。

書く内容は、3つに絞れます。

  • 使ってよいツール
  • 入力してはいけない情報
  • 困ったときの相談先

この3つだけでも、現場の判断はかなりしやすくなります。詳しくは社内のAI利用ルール、何を決めればいいですか?をご覧ください。

ルール作りで見落とされがちなのが、シャドーAIへの対応です。社員が良かれと思って個人で使い始めたAIが、もっとも管理しづらいリスクになることがあります。背景や対策については、社員が無許可で生成AIを使う「シャドーAI」とは?で詳しく扱っています。

社員教育は、難しい研修である必要はありません。「会社で決めたルールを守って使ってください」「困ったら相談してください」という2点を、月1回の会議の終わりに5分話すだけでも、少しずつ定着していきます。

経営者として伝えたい姿勢は、シンプルです。

「AIを使うこと自体は禁止しない」
「ただし、会社で決めた範囲で使う」
「迷ったら相談してよい」

この姿勢が伝わると、社員は安心してAIに触れやすくなります。

経営者がすぐに動ける3つのアクション

抽象的な話だけでは、明日からの行動につながりにくいものです。ここでは、最初の一歩として取り組みやすい3つのアクションを紹介します。

1つ目は、社内で誰が、どのAIサービスを、何の目的で使っているかをざっくり把握することです。

完璧な調査でなくても構いません。各部署の責任者に「業務でAIを使っている人がいたら教えてください」と聞いて回るだけでも、実態は見えてきます。実態が分かると、どのルールから作るべきかも判断しやすくなります。

2つ目は、入力禁止情報リストをA4一枚で作ることです。

お客様の名前、取引先名、価格情報、社員の個人情報、未公表の情報、パスワードなど、まずは分かりやすいものから並べます。最初から完璧にしなくても大丈夫です。印刷して共有したり、社内チャットに固定したりするだけでも、社員が判断しやすくなります。

3つ目は、設定を一緒に確認する場を作ることです。

部署単位や数名単位で集まり、「いま自分が使っているAIの設定を一緒に確認する」だけでも十分です。ひとりでは後回しになりがちな作業も、周りの人と一緒なら進めやすくなります。月に一度、30分だけでも時間を取ってみてください。

まとめ:完璧を目指さず、まず基本を押さえる

AIセキュリティは、完璧を目指すと動き出しにくくなります。情報システムの専任者がいなくても、現実的に手をつけられる基本を押さえれば、多くのリスクは減らせます。

「使わない」と決めるだけでは、これからの業務には合わなくなっていくかもしれません。だからこそ、「正しく使う」方向で考えることが、結果的に会社を守ることにつながります。

不安は、対策によって減らせます。今回紹介した5つの基本と3つのアクションのうち、まずは1つだけでも動いてみてください。それだけでも状況は変わります。詳しい対策が知りたくなったら、各関連記事に進んで確認しましょう。

最後の確認は、人の役目です。AIに作業の一部を任せる場面が増えても、判断の責任を持つのは人間です。この前提を社内で共有できていれば、AIは安心して使いやすい道具になります。

Q&A

Q1. 従業員が個人のスマホでAIを使っている場合、止めるべきでしょうか?

止めるだけでなく、「会社で使えるアカウントを用意する」方向で考える方が現実的です。AIの便利さを知った社員は、禁止されても別の方法で使おうとすることがあります。

会社で契約したアカウントを用意すれば、設定の確認や利用ルールの共有がしやすくなります。「業務では個人アカウントを使わず、会社のアカウントを使ってください」と伝える方が、安全な運用につながります。

Q2. 取引先から「AIで作った成果物は納品しないでほしい」と言われたら、どう対応すればいいでしょうか?

まずは、取引先の意向を尊重し、契約や発注条件の中で扱いを明確にしておくのが先決です。

そのうえで、社内では「AIを使った場合は記録する」「最終確認は人が行う」というルールを決めておくと、後から説明しやすくなります。AIを社内の作業補助として使うことと、AIが作ったものをそのまま納品することは同じではありません。この線引きを社内で共有しておくと安心です。

Q3. AIセキュリティは、どこまでやれば安心してよいのでしょうか?

AIセキュリティに完璧はありません。これはAIに限らず、どのセキュリティ対策にも言えることです。

大切なのは、完璧を目指すことではなく、「最低限の基本を押さえる」「定期的に見直す」「困ったら相談できる状態を作る」ことです。今回紹介した5つの基本を押さえておけば、何も決めずに使っている状態よりも、リスクを大きく減らせます。