この記事でわかること

  • 研修直後は使われても、1か月後に利用者が減る理由がわかる
  • 生成AIを日常業務で使い続けるために、研修前に決めておくことがわかる
  • 新しいツールを増やさず、いまの職場環境で始める方法がわかる

生成AIの研修を行うと、直後は何人かが実際の業務で試し始めます。

しかし、1か月ほど経つと利用者が減り、気づけば以前のやり方に戻っている。研修後のアンケートでは好意的な反応が多かったのに、仕事の進め方はあまり変わっていない。こうした状況は、多くの会社で起こります。

このとき、原因を「社員の意欲が低い」「研修の内容が不十分だった」と考えるだけでは、次の研修でも同じ結果になりやすくなります。もちろん研修の質は欠かせません。ただ、それ以上に見落とされやすいのが、研修後に使い続けるための準備です。

生成AIは、便利だとわかっただけでは定着しません。日々の業務に戻れば、慣れた方法のほうが速く感じます。どの作業で使えばよいかわからない。途中でうまくいかなくても聞く相手がいない。周りが使っていなければ、自分だけ違うことをしているように感じる。こうした小さな迷いが重なると、人は自然に以前のやり方へ戻ります。

総務省の「令和7年版 情報通信白書」でも、企業が生成AIを導入する際の懸念として「効果的な活用方法がわからない」ことが挙げられています。操作方法を教えるだけでは、自分の仕事のどこで使うのかまでは決まりません。研修で必要なのは、使い方の説明に加えて、翌週から試す業務まで決めておくことです。

まず、生成AIを使う業務を一つ決める

一つ目の準備は、研修後に生成AIを使う業務を一つ決めておくことです。

「業務で使ってみてください」と伝えるだけでは、何に使うかを一人ひとりが考えなければなりません。忙しい職場では、その時点で後回しになります。

たとえば、問い合わせメールの返信案を作る、会議メモを要約する、社内向けのお知らせ文を整える。最初は、この程度で十分です。上司と本人で「今週はこの業務に使う」と決めておけば、研修で学んだ内容を試す場面が生まれます。

問い合わせメールの返信案なら、次のように依頼できます。

お客様からの問い合わせメールへの返信文を作ってください。内容は、注文商品の納期を知りたいという問い合わせです。やわらかく丁寧な言葉づかいで、3文程度にまとめてください。

生成AIは、文章のたたき台をすぐに出してくれます。ただし、納期の日付、担当者名、金額などの事実は人が確認する必要があります。生成AIに任せるのは、文章の整理や言い回しの調整です。事実確認と最終判断は、人が行います。

この役割分担を最初に伝えておくと、「どこまで任せてよいのか」が明確になり、不安を減らして使い始められます。

困ったときに質問できる場所を用意する

二つ目の準備は、質問できる場所を決めておくことです。

生成AIを使い始めると、必ず小さなつまずきが出ます。思ったような回答が出ない。出てきた文章をどの程度直せばよいかわからない。なかでも、顧客情報や社内の情報をどこまで入力してよいかは、最初の研修で全員に伝えておきます。一人でも誤って入力すれば情報が外に出るおそれがあるため、人数が増えてから決めるのでは間に合いません。

こうした場面で一人のまま止まると、その後は使わなくなります。新しい仕組みを用意する必要はありません。普段使っているチャットに質問用の投稿場所をつくる。朝礼や定例会議の最後に、数分だけ相談時間を設ける。それだけでも十分です。

大切なのは、上司やリーダーが「わからないことはここで聞いてよい」と先に示すことです。質問先が決まっていれば、つまずいた人ももう一度試しやすくなります。

小さな活用例を社内で共有する

三つ目の準備は、社内の小さな活用例を見えるようにすることです。

自分だけが使っているように感じると、続けにくくなります。反対に、ほかの人の使い方が見えると、「それなら自分の業務でも試せそうだ」と考えやすくなります。

共有する内容は、立派な成功事例でなくて構いません。

「議事録の要約に使ったら、清書に1時間かけていたのが15分で済んだ」 「見積もりの送付メールを、要点を伝えるだけで体裁の整った文面にしてもらえた」 「採用の募集文を三案出してもらい、いちばん合うものを選んで手直しした」

このくらいの一言で十分です。何の業務がどう楽になったかが伝わる例だと、ほかの人も真似しやすくなります。

研修前に決めておく

この三つは、研修が終わってから慌てて足すものではありません。研修前の計画に入れておくものです。

研修当日までに、翌週から誰がどの業務で使うのか、困ったらどこで質問するのか、うまくいった例をどこに共有するのかを決めておきます。操作方法を教える時間と同じくらい、この準備には意味があります。

すべてを一度に整える必要はありません。次の研修では、まず「生成AIを使う業務を一つ決める」だけでも構いません。研修の最後の10分を使い、参加者に「来週、自分はこの業務で生成AIを使う」と書き出してもらいます。

それだけでも、研修はその場で終わらず、翌週の行動につながります。

Q&A

Q1. 研修から時間が経っていても、いまから始められますか?

始められます。全員を集め直す必要はありません。次の朝礼やミーティングで「今週、この業務を生成AIで一つ試す」と決め、質問できる場所と共有する場所を用意すれば、そこから再スタートできます。

Q2. 忙しくて続かなさそうです。どうすればいいですか?

作業を小さくしてください。「メール一本の下書き」「会議一回分の要約」のように、5分で終わる単位に区切ると、忙しい日でも試せます。業務全体を一度に変えようとせず、一つ定着してから次を足すほうが続きます。

Q3. 使う人が増えたら、次に何を考えるべきですか?

使い方のばらつきを整える段階に入ります。同じ業務でも人によって入力の仕方が変わってくるので、うまくいった入力例を一か所にまとめておくと、後から始める人が迷いません。そのうえで、これまで一人で抱えていた作業のうち、何を生成AIと分担できるかを見直していくと、定着から活用へ進めます。