「進捗管理まで手が回らず、結局、自分でやってしまうんですよね」

これまで、立場の異なる方々からこの言葉を聞いてきました。アルバイトスタッフを管理する店舗の責任者、業務委託先と仕事を進める小規模企業の経営者、実務とマネジメントを兼ねる管理職。置かれている状況はそれぞれ違うのに、悩みはよく似ています。

こうした方々は、すでにさまざまな工夫を試しています。タスク管理ツールを導入した。スプレッドシートで管理表を作り、Google Apps Script(GAS)でチャットに通知する仕組みを組んだ。それでも気づけば自分で手を動かしていて、いつの間にか「自分はマネジメントに向いていないのかもしれない」と考えてしまう。

この記事では、その結論をいったん見直してみたいと思います。任せられないのは能力の問題というより、仕事を任せるための仕組みに原因があることも多いのではないか。それがここで考えたいことです。

任せるときには、三つの業務が発生する

誰かに仕事を任せるとき、任せる側には見えにくい業務が発生します。大きく分けると三つです。

一つ目は、仕事を切り出して説明することです。頭の中にある「やってほしいこと」を、相手がすぐ動ける程度まで分解し、背景や完了条件を言葉にします。相手がその仕事に慣れていないほど、丁寧な説明が必要になります。

二つ目は、進捗を確認し続けることです。今どこまで進んでいるのか、止まっていないか、止まっているなら何が原因か。報告が自然に上がってくる仕組みがなければ、こちらから確認しに行くことになります。

三つ目は、成果物を確認し、必要に応じて修正を依頼することです。意図とずれていれば、どこがどう違うのかをあらためて説明します。場合によっては、背景や完了条件から伝え直すことになります。

この三つにかかる時間と労力が「自分でやる手間」を上回ると、人は任せることをやめてしまいがちです。じっくり検討した結果というより、日々の忙しさの中で起こる自然な反応だと思います。

「説明している時間があれば、自分でやったほうが早い」
「催促するくらいなら、自分で進めたほうが気が楽だ」

そう感じたことのある方は、少なくないはずです。

こう考えると、「自分でやってしまう」原因は、意志の弱さや管理能力の不足だけではありません。任せるときに発生する業務を、管理する側が一人で抱え込んでいる。その構造にも目を向ける必要があります。

なぜツールを導入しても解決しにくかったのか

では、タスク管理ツールを導入すれば、この業務は軽くなるのでしょうか。試したものの、思うようにいかなかった方も多いと思います。そこには構造的な理由があります。

本格的なタスク管理ツールは、機能面ではよくできています。ただ、タスクを適切な大きさに分ける、進行状況を更新してもらう、定期的に棚卸しする、といった運用を人が続けることが前提です。進行管理を専門に担う人がいる組織なら回りますが、実務と管理を兼ねる現場では、運用そのものが新たな負担になります。

そこで、もっと身軽な方法として選ばれやすいのが、スプレッドシートとGASの組み合わせです。低コストで柔軟ですが、アルバイトスタッフや業務委託先が関わると、今度は権限管理の壁に突き当たります。全体の管理表には、ほかの担当者の作業内容や契約条件など、そのまま共有できない情報が含まれるからです。やむなく担当者ごとにファイルを分けて配ると、更新内容を集約する手元で転記漏れや不一致が起こり始めます。

それなら、権限設定を備えたNotionのような自由度の高いツールはどうでしょうか。今度は、「どこに何を入力するのか」の設計と説明を、導入する側が引き受けることになります。デジタルツールに不慣れな利用者や、ふだんそのツールを使わない外部の関係者に、入力ルールまで理解してもらうのは難しい場面が多いはずです。

つまり、高機能なツールは運用の担い手を、スプレッドシートは権限と同期の管理を、自由度の高いツールは設計と説明を、それぞれ管理する側に求めます。実務と管理を兼ねる人が、アルバイトスタッフや業務委託先と一緒に無理なく使える仕組みは、これまであまり多くなかったのではないでしょうか。任せられなかった理由を、管理する側の力不足だけに求める必要はありません。

生成AIが変えたのは、「書ける」ことだけではない

ここで、生成AIの話になります。ただし、一般的な語られ方とは少し違う角度からです。

生成AIの普及以降、「AIにGASなどのコードを書いてもらい、業務を効率化する」という話をよく見かけるようになりました。それ自体は便利ですが、少し引いて見ると、スプレッドシートを前提にした改善でもあります。コードを書きやすくなっても、権限管理、情報の同期、入力が続かないという課題はそのまま残ります。

生成AIがもたらした重要な変化は、別のところにあるのではないでしょうか。先ほどの三つの業務を、AIが部分的に支援できるようになってきたことです。

まず、切り出して説明する業務です。「これをお願いしたい」という内容を文章にしてAIに伝えれば、タスクの分解や、相手に伝わりやすい依頼文の下書きを作れます。ゼロから考える作業が、下書きを実際の業務に合わせて整える作業に変わります。

次に、進捗を確認する業務です。生成AIを業務管理の仕組みに組み込めば、任された側は決められた形式に合わせなくても、「今日はここまで終わった」「ここで詰まっている」と普段の言葉で報告できます。AIがそれを読み取ってタスクの更新情報に整理し、さらに「今日中に判断が必要なこと」「数日間動きがない作業」を管理者に示すこともできます。

そして、成果物を確認する業務です。あらかじめ定めた完了条件と成果物をAIに照らし合わせてもらえば、確認すべき点や意図とのずれを整理できます。最終的に判断するのは人ですが、どこを見て何を伝えるかを整理する手間は軽くなります。

三つの業務が軽くなれば、「自分でやるか、任せるか」の判断基準は変わります。任せられるようになるのは、マネジメント力が急に高まるからではなく、任せた後の説明や確認を無理なく続けられるようになるからです。

ただし、生成AIに相談するだけで、こうした進捗管理が実現するわけではありません。AIの整理能力を、タスク情報や利用者ごとの権限と結び付ける仕組みが必要です。そこで意味を持つのが、自社の業務に合わせた小さな専用ツールです。

専任のプロジェクトマネージャーがいない会社にこそ、選択肢が生まれつつある

とはいえ、自社専用のツールと聞くと、大がかりな開発を想像するかもしれません。実は、ここにも変化が起きています。

これまで、自社の業務に合ったツールを持つには、開発から保守まで相応の投資が必要でした。だから多くの会社は、既存のツールに業務を合わせるか、スプレッドシートで工夫を重ねるか、二つに一つでした。生成AIが開発を支援するようになった今、機能を絞った小さなツールであれば、「自社の業務に合わせて作る」という三つ目の選択肢が、小規模な会社にも手の届くものになりつつあります。要件の整理やセキュリティ、運用には引き続き人の判断が必要ですが、以前のように最初から諦める話ではなくなりました。

自社に合わせて作れると、何がよいのでしょうか。一番の価値は、画面から余計なものをなくせることです。

汎用ツールの画面には、たくさんの機能やメニューが並んでいます。どんな会社でも使えるようにするためですが、不慣れな人にとっては、それこそが「どこに何を入力すればいいのか分からない」原因になります。

専用ツールなら、使う人に必要なものだけを画面に置けます。アルバイトスタッフが開けば、その日のタスクと報告欄だけ。管理者が開けば、判断が必要なことが最初に見える。誰が開いても迷わない画面にできるので、「入力してもらえない」「定着しない」というつまずきを越えやすくなります。

三つの業務をAIが支え、その仕組みを自社に合う形で持てる。専任のプロジェクトマネージャーを置けない会社にとってこそ、意味の大きい変化のはずです。

自分でやってしまうことを、自分だけの課題として抱え込む必要はないのかもしれません。任せた後の業務を支える道具が、これまで手の届くところになかった。その状況が、ようやく変わり始めています。

おわりに 手が届くようになったからこそ、線引きが必要です

最後に、一つ補足します。自社向けのアプリを開発しやすくなったといっても、何でも作ってよいわけではありません。どのようなデータを扱うのか。誰にどこまでアクセスを認めるのか。障害や情報漏えいが起きたときにどう対応するのか。セキュリティへの理解と運用ルールづくりは、専用ツールを持つうえでの前提です。

生成AIが作成したコードも、そのまま安全とは限りません。動いているように見えても、権限設定やデータの扱いに問題が含まれている可能性があり、人によるレビューとテストが欠かせません。契約が終わった人の権限をいつ削除するのか、作った人がいなくなった後に誰が保守するのかも、あらかじめ決めておく必要があります。作るハードルが下がったからこそ、何を作り、何を作らないのかという線引きの重要性は、むしろ増しています。

てならいAI通信の運営元でも、生成AIを活用して社内向けのアプリを実際に構築し、運用しています。その過程で得た線引きの考え方や、つまずきやすいポイントは、今後、実践的な記事として公開していく予定です。