この記事でわかること
- AIから一般論しか返ってこないとき、何が伝わっていないのかがわかる
- 背景・制約・参考の3つで、AIに伝える情報を整理する方法がわかる
- 社内でしか通じない言葉を、AIに伝わる形に言い換えるコツがわかる
AIへの依頼は、目的・ターゲット・トンマナを揃えてから始まるでは、依頼の方向性をどう決めるかを整理しました。
何を作るのか、誰のために作るのか、どんな雰囲気にしたいのか。この3つが揃うと、依頼の入口は整います。
ところが、入口を整えたあとでも、実際にAIに入力してみると、まだしっくりこないことがあります。文章の形にはなっているのに、自社の状況に合っていない。どこか一般的な答えのままで、そのまま使える状態になっていない。
その原因の多くは、AIにうまく情報を整理して伝えられていないことにあります。これはAIに上手に頼める人がやっている、6つのことで挙げた6つの要素のうち、3つ目の「情報を整理して伝える力」と、4つ目の「相手に伝わる言葉に置き換える力」にあたります。
察してくれないのは、AIだけではない
AIは社内の事情を察してくれません。
誰が何を担当しているのか、どんな経緯でこの依頼が生まれたのか、業界では何が常識で何が例外なのか。こうした文脈は、入力しない限りAIには見えません。
ただ、察してくれない相手はAIだけではありません。
新入社員、外注先のデザイナー、他部署の担当者、転職してきた同僚、社外のコンサルタント。社内の事情をまだ共有していない相手は、こちらの頭の中を読み取れません。
たとえば、仙台市の機械部品メーカーで、新入社員に初めて発注書の作成を頼む場面を考えてみてください。
「いつものお客さんに、いつもの内容で」
これだけでは伝わりません。取引先名、商品名、数量、納期、確認すべき担当者、前回との違いなどを伝えなければ、相手は動けません。
頼んだ側にしてみれば、「これくらいは新入社員でもわかるだろう」「過去の資料を見ればわかるはず」と思っていたかもしれません。けれど、その思い込みは、相手には伝わっていなかったのです。
仕事で起きるコミュニケーションエラーの多くは、こうした「言わなくてもわかる」と思っていた前提から生まれます。
AIに依頼してうまくいかない場面も、これとよく似ています。
やっかいなのは、AIが何かしらの答えを必ず返してくる点です。返ってきた文章は一見正しそうに見えても、よく読み返すと、自社の状況とつじつまが合っていない。一見正しそうなのに、全体として使えないアウトプットになる原因は、ここにあります。
AIに伝える情報は「背景・制約・参考」で整理する
では、AIにはどんな情報を伝えればよいのでしょうか。
大きく分けると、背景・制約・参考の3つです。
まずは背景です。
この依頼はどんな経緯で生まれたのか、誰に向けて何のために作るのか、関係者は誰なのか。背景があるだけで、AIの返答はかなり変わります。
たとえば、福島県の食品加工会社で、長く取引が続いているお客様への謝罪文を書く場合と、初めて問い合わせをくれた新規のお客様へ返信する場合では、必要な文章はまったく違います。
同じ「お詫びの文章」でも、関係性、過去の経緯、今後の対応によって、言葉の選び方は変わります。
次に制約です。
避けたい表現、文字数の上限、納期、社外秘で出せない情報などです。
「強く言い切る表現は避けてください」
「400字以内でお願いします」
「お客様を責めるような表現にはしないでください」
「社名や具体的な金額は出さずに書いてください」
このように条件を伝えるだけで、修正の往復はかなり減ります。
最後に参考です。
過去に同じような場面で使った文書、社内のひな形、参考にしたい文体などがあれば、AIに読み込ませることで、近い雰囲気の素案を作りやすくなります。
ただし、何でも大量に入力すればよいわけではありません。
関係のない情報を入れすぎると、AIはどこを重視すればよいか判断しにくくなります。情報が少なすぎても、逆に多すぎても、答えの焦点はぼやけます。
大切なのは、必要な情報を選び、順序を整えて伝えることです。
社内用語や業界用語は、そのままでは伝わらない
もうひとつの壁が、言葉そのものです。
社内では当たり前に通じている略称や部署名、業界用語も、AIにはそのままでは伝わりません。
たとえば、次のように入力したとします。
「うちの品管に出す資料を作ってください」
社内では「品管」が品質管理部を指すと分かっていても、AIにはその会社の部署名や役割までは分かりません。品質管理部の誰に出すのか、何を判断してもらう資料なのか、どの程度の細かさが必要なのかも見えません。
この場合は、次のように言い換えたほうが伝わりやすくなります。
「品質管理部の課長に提出する、先月発生した不適合品の件数と原因をまとめた月次報告書を作ってください」
ここまで書くと、作るべき資料の中身がはっきりします。
この作業は、AIへの依頼だけに役立つものではありません。
新入社員や外注先に頼むときも同じです。社内用語をそのまま使えば、相手は分からないまま作業を始めてしまいます。その結果、出てきたものが意図とずれてしまうことがあります。
AIに伝わる言葉へ置き換えることは、自分の説明を見直す作業でもあります。
なぜ、この一手間を惜しんでしまうのか
ここまで読むと、「やったほうがいいのは分かるけれど、毎回そこまで書くのは面倒」と感じるかもしれません。
実際、この一手間は誰でも省きたくなります。
理由はいくつかあります。早く作業を進めたい。自分の頭の中では分かっているので、相手にも伝わるだろうと思ってしまう。細かく書きすぎると、相手に失礼な気がする。
どれも特別なことではありません。多くの人が、日々の仕事の中で同じように感じています。
ただ、最初に省いた説明は、あとから手戻りとして返ってきます。
AIなら何度も修正を依頼することになります。新入社員なら作業をやり直してもらうことになります。外注先なら追加の打ち合わせが必要になります。
最初の一手間を惜しんだ結果、かえってやり取りが長くなるのです。
後手に回りがちな仕事を振り返ってみると、最初にきちんと情報を整理して伝えていないことが原因になっている場面が、案外多いものです。
まとめ
依頼の方向性が決まったら、次に必要なのは、AIに伝える情報の整理と、伝え方の見直しです。
この2つは、AIに対する特別な技術ではありません。社内の事情を知らない相手に、伝わる形で情報を渡すための基本です。
次にAIへ頼むときは、入力欄に打ち込み始める前に、頭の中で省いていたことを一度メモに書き出してみてください。
背景は何か。制約は何か。参考にしたいものはあるか。社内でしか通じない言葉を使っていないか。
この1分の整理が、あとの30分の手戻りを減らしてくれます。
そして、ここまで整えて返ってきた答えをどう読み、どう直していくか。その話は、シリーズの次回で整理します。
Q&A
Q:背景をどこまで入力すればよいか分かりません。
A:判断軸は、「受け取った相手が、次に何をすればよいか迷わないか」です。AIや新入社員がその情報を読んで、追加確認をしなくても作業に入れそうなら十分です。読み返したときに「ここで迷いそうだな」と思う部分があれば、その背景を足してください。逆に、依頼の本筋と関係のないエピソードは省いて構いません。
Q:社外秘の情報があり、そのままAIに入力するのが不安です。どうすればよいですか。
A:固有名詞や具体的な数字を、少し抽象化して伝える方法があります。「A社向けの月次レポート」を「製造業のお客様向けに毎月送付している取引状況の報告書」と置き換える。「売上3億円」を「比較的取引額の大きいお客様」と表現する。業種、職種、規模感、関係性のような状況が伝われば、社外秘の生データを入力しなくても、依頼の精度は保ちやすくなります。