この記事でわかること
- 仮説がないと、AIの出力がありきたりになりやすい理由
- 仮説から問いへ、問いから依頼文へつなげる流れ
- AIが出した案を精査し、議論が深まる形で共有する方法
「お客様アンケートを、AIで作っておいて」と頼まれたとします。
AIに目的や背景を伝えて依頼すると、見た目の整ったアンケート案は出てきて、設問もそれらしく並びます。ところが、いざ内容を確認すると、「このアンケートを集計して、何を判断するのか」がはっきりしないことがあります。
原因は、AIの性能だけにあるわけではありません。AIに依頼する前に、自分たちが何を確かめたいのかを整理できていないことが大きな理由です。
アンケートは、ただお客様の声を集めるためのものではありません。自分たちの仮説を確かめ、次の判断につなげるためのものです。仮説がないままAIに依頼すると、AIは一般的な設問を並べます。その結果、見た目は整っていても、打ち手につながりにくいアンケートになってしまいます。
この記事では、アンケート作成を例に、AIに頼む前に考えておきたい流れを整理します。ポイントは、仮説を立てる、問いを立てる、依頼する、精査する、伝える、の5段階です。
仮説を立てる
アンケートを「お客様の声を広く集めるもの」とだけ捉えると、設問は広く浅くなります。
「総合的な満足度を教えてください」
「改善してほしい点はありますか」
こうした設問が悪いわけではありません。ただ、それだけでは集計後に「では何を変えるのか」までつながりにくくなります。
まず考えたいのは、自分たちは何を確かめたいのかです。その出発点になるのが仮説です。
ここでいう仮説とは、「お客様は、きっとこう考えて、こう動いているのではないか」という自分たちなりの読みです。
たとえば、次のように考えます。
- 半年以内に商品Aを購入したお客様は、最初の1か月は機能Bをよく使っていた
- しかし最近は、機能Cを使う人が増えているのではないか
- 機能Bは便利だが習慣化しにくく、機能Cのほうが日常の中で使いやすいのではないか
このように、誰が、どんな状況で、どう動いていて、その背景に何がありそうかまで考えると、アンケートで確かめるべきことが見えてきます。
「お客様は満足しているはず」という大まかな読みだけでは、仮説としてはまだ弱い状態です。満足しているのは誰なのか。どの場面でそう感じているのか。なぜそう思うのか。そこまで掘り下げて、はじめて次の問いにつながります。
仮説は、必ず当てるために立てるものではありません。外れたとしても、「なぜ違ったのか」を考える材料になります。仮説があるからこそ、結果を見たあとに次の判断がしやすくなります。
関連する考え方は、AIに頼んでも一般論しか返ってこない|情報の整理と伝え方でも取り上げています。
問いを立てる
仮説を立てると、確かめたいことが明確になります。確かめたいことが明確になると、アンケートで聞くべき問いも決まってきます。
ここで大切なのは、「お客様に何を聞くか」をいきなり考えないことです。先に、「自分たちは何を確かめたいのか」を言葉にします。
たとえば、仮説が「購入から1〜2か月で、よく使う機能が機能Bから機能Cに移っているのではないか」だとします。
このとき、確かめたいことは次の3つに分けられます。
- 実際に、使っている機能は変化しているのか
- 変化した場合、その背景には何があるのか
- 変化していない人がいる場合、その人たちは何が違うのか
この3つが、AIに依頼する前に整理しておきたい問いです。
問いの良し悪しは、仮説の検証につながるかどうかで決まります。
「総合的な満足度を教えてください」という問いは、使える場面もありますが、この仮説を直接確かめる問いではありません。一方で、「購入直後によく使っていた機能」と「最近よく使っている機能」を聞けば、利用の変化を確認できます。
仮説があると、問いに役割が生まれます。仮説がないままAIに依頼すると、AIは無難なアンケート案を返します。仮説をもとに問いを立ててから依頼すると、AIの出力も目的に沿ったものになりやすくなります。
依頼する
仮説と問いが整理できたら、それをAIへの依頼文に入れます。
たとえば、次のように依頼します。
半年以内に新商品Aを購入し、現在も継続利用しているお客様に向けたアンケートを作りたいです。
私たちの仮説は、購入から1〜2か月で、よく使う機能が変わっているというものです。最初は機能Bをよく使っていたお客様が、最近は機能Cを使うようになっているのではないかと考えています。
理由として、機能Bは便利ではあるものの習慣化しにくく、機能Cのほうが日常の中で使いやすいのではないかと見ています。
確かめたいことは3つです。
・実際に、使っている機能は変化しているのか
・変化した場合、その背景には何があるのか
・変化していない人がいる場合、その人たちは何が違うのかこの3つを確認できる設問を、8問以内で考えてください。LINEで配信するため、3分以内で答えられる長さにしてください。
このように、仮説と確かめたいことを入れて依頼すると、AIは仮説検証に沿った設問を出しやすくなります。
反対に、「お客様アンケートを作ってください」だけでは、AIは一般的なアンケートを作ります。差が出るのは、依頼文の言い回しの上手さではありません。依頼する前に、仮説と問いを整理できているかどうかです。
依頼文の組み立て方は、AIへの依頼は、目的・ターゲット・トンマナを揃えてから始まるも参考になります。
精査する
AIから設問案が出てきたら、そのまま使わず、仮説と問いに照らして確認します。
見るべきポイントは3つです。
一つ目は、仮説の検証につながる設問になっているかです。
AIの出力には、「総合的な満足度」「他社製品との比較」など、一般的な設問が混ざることがあります。それが今回の仮説を確かめるために必要かどうかを見ます。
二つ目は、確かめたい問いに答えられる設問がそろっているかです。
利用機能の変化を見たいなら、購入直後の使い方と、現在の使い方の両方を聞く必要があります。片方しか聞いていない場合、変化は確認できません。
三つ目は、仮説が外れたときにも次の問いが残るかです。
たとえば、機能Bから機能Cへ移っていない人が多かった場合、「なぜ移らなかったのか」を考えられる設問があると、次の改善につなげやすくなります。
仮説と問いがあると、精査の基準がはっきりします。
「なんとなく違う」ではなく、「この設問は仮説の検証に使えない」「この設問だけでは背景が見えない」と判断できます。修正を依頼するときも、AIに具体的に伝えられます。
たとえば、次のように伝えます。
3問目は今回の仮説検証に直結しないため削除してください。その代わりに、購入直後によく使っていた機能を聞く設問を追加してください
このように、AIの出力をたたき台として使いながら、仮説に沿って調整していきます。
精査の進め方は、AIの出力を鵜呑みにしない。評価と修正の進め方で詳しく書いています。
伝える
アンケート案を依頼してきた相手に共有するときは、設問だけでなく、仮説と問いも一緒に伝えます。
たとえば、次のように共有します。
今回の仮説は、購入から1〜2か月で、よく使う機能が機能Bから機能Cに移っているのではないか、というものです。確かめたいのは、実際に変化しているか、変化の背景に何があるか、変化していない人は何が違うかの3点です。
仮説が当たっていれば、機能Cを軸にした提案を組み立てられます。外れていた場合は、なぜ違ったのかを次の問いにします。設問はこの考え方で組みました。特に5問目の聞き方は、もう少し調整の余地があると思っています
このように伝えると、相手は設問の表現だけでなく、アンケートの前提から確認できます。
「その仮説は現場感と合っているか」
「別の仮説も考えられないか」
「この問いで本当に確かめられるか」
こうした議論ができるようになります。相手が現場の経験を持っていれば、仮説そのものがより具体的になることもあります。
一方で、仮説も問いも伝えずにアンケート案だけを共有すると、確認は設問の表現に偏りがちです。土台にある考えが共有されないため、本来したかった議論にたどり着きにくくなります。
AIへの頼み方の基本姿勢は、AIに上手に頼める人がやっている、6つのこともあわせて読むと、全体の流れがつかみやすくなります。
まとめ
AIに業務の成果物を頼むときは、いきなり依頼文を考える前に、仮説と問いを整理しておきます。
仮説があると、何を確かめるべきかが見えてきます。問いが立つと、AIへの依頼が具体的になります。依頼が具体的になると、出てきた案を精査しやすくなります。
アンケート作成に限らず、企画案、提案資料、ヒアリング項目、チェックリストなども同じです。AIに作ってもらう前に、自分たちは何を確かめたいのかを考えておくことで、出力の質は大きく変わります。
次にAIで何かを作るときは、まず3分だけ手を止めて、自分たちの仮説を書き出してみてください。
「誰が、どんな状況で、どう動いていて、その背景に何がありそうか」
ここまで整理できれば、AIへの依頼はかなり具体的になります。AIに頼む前の数分が、出力の質を左右します。
Q&A
Q1. 仮説が思いつかないときは、どうすればいいですか?
最初から鋭い仮説を出す必要はありません。まずは、すでに見えている事実を並べるところから始めます。
たとえば、よく聞かれる質問、購入後の行動、問い合わせ内容、営業や店舗スタッフが感じている違和感などです。そこから、「なぜそうなっているのか」を考えると、仮説の形に近づいていきます。
AIに仮説づくりを手伝ってもらうこともできます。その場合も、事実を何も入れずに聞くのではなく、「こういうお客様がいて、こういう行動が見えています。どんな仮説が考えられますか」と依頼すると、使いやすい案が出やすくなります。
Q2. 仮説と違う結果が出たら、アンケートは失敗ですか?
失敗ではありません。仮説と違う結果が出た場合は、「自分たちの読みと実際の行動にズレがあった」とわかったことになります。
大切なのは、そのズレを次の問いにつなげることです。
たとえば、機能Bから機能Cへ移っていると思っていたのに、実際は変化していなかったとします。その場合、「なぜ変化していなかったのか」「機能Bを使い続けている人は何を評価しているのか」といった新しい問いが生まれます。
仮説を立てずに集めた声は、次の判断につながりにくいことがあります。一方で、仮説を立てていれば、外れた結果にも意味が残ります。